源平合戦の終止符・壇ノ浦
平家物語のクライマックス
高橋 昌明 |
重衡(しげひら)、維盛(これもり) 敗戦と二人の運命
古来、日本の古典文学の中で、人気・実力で他の追随を許さないのは『平家物語』。『源氏物語』もすごいが、原文はこちらのほうが、ずっと読みやすい。それでも私など、学生時代、はじめて通読したときは、慣れぬ漢語・古語のラッシュで難儀し、しばしば立ち往生した。
それがCDクラブの企画で、平易・流麗に、親しめるようになった。今回発売の盤は、シリーズ第5作目。『平家物語』でも、終末近い巻十の「千手
前」と「維盛入水」、巻十一の「那須与一」と「先帝身投」を中心にまとめている。
「千手前」は、寿永3(1184)年の一ノ谷の敗戦で、囚われの身となった平重衡、「維盛入水」は、同じく一ノ谷戦後、屋島の一門主流からドロップアウトし、那智の海に入水する小松家の平維盛、歳も経歴もあい似た、二人の直面する運命を語る。
両者は、平家野戦軍の最高指揮官として双璧だったけれど、そこはそれ、やはり平家の公達。重衡は、牡丹の花にたとえられる陽性の華やかさで、宮廷の女房たちのハートを騒がせ、維盛は、たぐいまれな美貌で、同時代人から光源氏の再来とうたわれた。
屋島、壇ノ浦 平家滅亡のとき
「那須与一」と「先帝身投」は、屋島合戦の一コマと、平家族滅の壇ノ浦戦をあつかう。前者は、波間に上下する扇の的を、首尾良く射落とすまでの若武者の心理の動きを追い、後者は、幼い安徳天皇が、祖母二位の尼にいだかれながら、「浪のしたにも都のさぶらふぞ」の言葉とともに、海に沈むシーンを中心にする。
解説は、『平家物語』研究の第一人者・佐伯真一さん。豊かな学識を基礎に、平家と源平合戦を周到に解説、登場人物たちの心と境遇に、やさしいまなざしをそそいでいる。
氏は、壇ノ浦戦での平家の敗因を、潮流の反転に求めるなど、近代以降のさかしらな説明でなく、『平家物語』に即し、多年つきしたがった平家恩顧の家人たちが、裏切りの雪崩現象を起こしたからとする。
また、敗色濃厚な中で、戦況やいかに、と問う女房たちに、総大将の平知盛が、「めづらしきあづま男をこそ御らんぜられ候はんずらめ」と、冗談めかして答える言葉が、やがて勝利した東国武士たちのなぐさみものに供される深刻な現実への、彼女たちの覚悟をうながすものであることを、的確に指摘する。
これら原文のとびきりの名場面を朗読するのは、元NHKのベテラン・アナウンサー、長谷川勝彦さん。よどみなく、端正で、しかもふくらみのある語り口が絶妙。
そして、あいだに挟むのは、橋本敏江さんの琵琶の語り。前田流平家琵琶の古雅の香りをただよわせながら、わかりやすいのがうれしい。 ▼ ほかの記事も読む
高橋 昌明
神戸大学文学部教授。博士(文学)。1945(昭和20)年高知市に生まれる。同志社大学大学院文学研究科修士課程修了。専門は日本中世史。とくに現在は武士論、平氏・平氏政権論に集中。著書に『増補改訂・清盛以前』(文理閣)、『武士の成立
武士像の創出』(東京大学出版会)、『酒呑童子の誕生』(中公文庫)など。
商品番号 |
070 083 |
価 格 |
¥3,675(税抜¥3,500)2枚組特別価格
※44ページ解説書付き(朗読部分原文及び語句注釈を掲載) |
タイトル |
平家物語〜那須与一・先帝身投
【CD 1】千手前/維盛入水
【CD 2】那須与一/先帝身投 |
講 師 |
佐伯真一 |
原文朗読 |
長谷川勝彦 |
平 曲 |
橋本敏江 |
その他 |
全曲モノーラル録音、録音年代:05.9、Label:ANY、発行:NHKサービスセンター |
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