稗史の中で命を燃やす剣豪たち
虚構と現実の狭間に見えるその実像
高橋千劒破
無敗伝説を誇る戦国期の剣豪塚原ト伝
50代以上の男性なら、少年時代に木や竹の刀を振り回して遊んだ経験を持つ人は、少なくないに違いない。昭和30年代まで、チャンバラごっこは男の子の遊びの主流であった。多くの少年たちが剣豪に憧れた。 剣豪、すなわち剣術の達人として歴史にその名を留めた者は少なくない。戦国時代から江戸時代初期にかけてが、彼らの活躍した時代だ。だが、泰平の時代になると、刀は武士の魂の拠り所となり、殺し合いの武器ではなくなる。侍がまず身に付けるべきは、武技ではなく学問となり、剣豪は影をひそめていく。代わって、多くの剣豪が稗史の中で活躍しはじめるのである。剣豪を主人公とした物語や講談、芝居は江戸時代を通じて人気が高く、明治以降の近代も人気を保ち続け、多くの架空の剣豪も生んだ。現代に至ってなお、剣豪小説は、時代小説の主要な一ジャンルとして生き続けている。正史から姿を消しても、剣豪たちは稗史によって、現代まで語り継がれてきたのである。
本CDでは、戦国から江戸初期にかけて活躍した5人の剣豪が語られる。語るのは時代小説に精通した文芸評論家の縄田一男氏。
塚原卜伝は、戦国時代を代表する剣豪の一人。23歳から72歳までの50年間に、39回出陣し、その間19回の真剣勝負をして一度も負けなかったという。宮本武蔵の剣を鍋蓋で受けた話など多くの逸話があるが、史実としての生涯は多くが不詳である。縄田氏は、その史実と虚構を判り易く語る。
物語の主人公として読者を魅了する武蔵、十兵衛
宮本武蔵は、剣豪中の剣豪であり、その名を知らない人は、まずいない。だが事績に関しては不明な点が多く、私たちが知っている宮本武蔵像の多くは、吉川英治の小説『宮本武蔵』によるものだ。縄田氏は、江戸時代に流布した武蔵の伝記『二天記』について、また直木三十五と吉川英治の武蔵をめぐる論争などにふれ、「吉川武蔵」誕生の経緯も語る。坂口安吾の武蔵論なども紹介して興味深い。柳生石舟斎宗厳・但馬守宗矩・十兵衛三厳の柳生三代に関しては、柳生家が大名として続いたこともあって、比較的事績は明らかである。だが剣豪としての部分は、やはり稗史が勝って、史実としては不明な点が多い。ことに柳生十兵衛に関しては、隠密としての廻国伝説など謎が多い。だからこそ、十兵衛は多くの物語の主人公となり得た。
縄田氏はまた、小説にしろ映画にしろ、剣豪を描くのにリアリズムは受けないという。大衆は、実像よりも虚構のロマンを好むものだから、と。(高橋千鍵破)
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高橋千劒破(たかはしちはや)
文芸評論家、作家。1943年、東京生まれ。立教大学文学部卒業。「歴史読本」編集長を経て、執筆活動に。12001年、『花鳥風月の日本史』で大衆文学研究賞受賞。著書に『歴史を動かした女たち』『名山の日本史』『江戸の旅人』など。
商品番号 | 072 698 |
価 格 | ¥2,310(税込) |
タイトル | 戦国時代〜江戸時代初期の剣豪列伝 |
講 師 | 縄田 一男 |
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情報更新:2007/10/31