トッカリショ、イタンキ、だんパラ。どこの外国かと間違ってしまいそうな名前だ。地球岬は知っていても、この奇妙なカタカナ地名が日本のどこにあるかが分かる人は少ないのではないだろうか。
鉄の町、室蘭。ビジネスで訪れる人は多くても観光という言葉には縁遠い。
岬の先端部に、この地を愛する画家の私設ギャラリーがある。入り組んだ海岸線、そして霧、雲、夕日の表現。室蘭の自然に魅された心が、その巧みな筆先から伝わる。彼は言う。この岬の荘厳で雄大な自然の美しさは、世界遺産・知床のそれ以上だと。
私達夫婦は、室蘭市の暮らし体験事業に参加し、20日間、市の施設に宿泊して、実際の生活を行った。
霧や曇りの日が多い7月の室蘭。北海道の中でも、かなり気温が低い。朝晩はストーブを入れたくなる。この時期は室蘭らしい初夏の雰囲気を味わうことができる。陽気な草花が咲き乱れる中で、霧にかすむ駒ケ岳、有珠山、羊蹄山、室蘭岳。高台からは360度の海が、遠く白い雲海の中で臨める。
ここでは幾つか、私が感じた素晴らしい室蘭を書くことにする。また、触れ合った素敵な人々についても紹介していきたい。
『トッカリショ』
室蘭駅から車で10分の場所で、これほど雄大な景勝地があるとは信じられない。穏やかな緑の草原。荒々しい海との境界は、切り立った白い断崖。海の中の奇岩が、その風景をより男性的にする。この広大で荘厳な自然は、スコットランドのダンカンスビー・ヘッドに似ている。こちらはスコットランドの絵葉書で、必ず登場するほど世界的に有名だ。
『イタンキ浜』
トッカリショに繋がる広い砂浜で鳴り砂が特長だ。砂に小さな石英が混じり、靴を軽く滑らせると、キュッキュッと砂が鳴く。「鳴り砂を守る会」の市民清掃会に参加する。美しい浜と鳴り砂を保護するための大切な活動だ。気軽に話しかけてくれる人々。賑やかなお弁当の輪に招いてくれる人々。仲良くなった人が、その翌日、私達のためだけに船を出し、魚釣りに誘ってくれた。釣果は、なんと50センチの真ガレイだ。
本当に気持ちの良い人々ばかりで嬉しくなる。自然を愛し、その日をゆったり、のんびり過ごす。気のあった仲間達と語り合う。決して多くを求めず、今、生きていることの喜びを思いっきり感じようとする。こんな当たり前の人生が、至福と言うのかもしれない。
『だんパラ高原』
ひらがなとカタカナの混じった不思議な地名。街から車で30分、室蘭岳登山道の入り口。ここでは、とてつもなく広い芝生で遊ぶことができる。スキー場もある。ロッジにはレストランが通年営業していて、名物は、この場所ならではの新鮮な鹿肉。眼下の室蘭港を眺めながら色々な料理を楽しむことができる。しかも価格は、とてもリーズナブル。
サービスを提供する側も受ける側も、決して、必要以上を望まない。大量生産でも大量消費でもない。一つ一つを大切にする。だからシーズンオフでも営業が成り立つ。大自然を愛し、お互いの気持ちを大事にする社会。利益優先の都会では、味わえない文化だ。
『ランドマークの測量山と白鳥大橋』
室蘭では、どこにいても、この二つのランドマークを見ることが出来る。明治時代に道路を造る見当をつけたことから見当山とよばれ、その後、測量山と名を変えた。標高200mの頂上からの眺めは、まさに絶景。与謝野晶子・鉄幹夫妻もここを訪れ、歌を詠んだ。今は、テレビ電波等が並ぶ格好の目印だ。
もう一つのランドマークは、最近完成したばかりの東日本最大のつり橋、白鳥大橋だ。この町に洗練された造形美を加えている。風力発電によるライトアップで夜景も素晴らしい。白鳥大橋をくぐり、豪華客船、飛鳥Uが、初めて室蘭港に入った。測量山を背景にして、桟橋に横付けされたその華麗な雄姿は、まるで絵画を見ているようだ。
この港は、自然の地形が作り出した良港だ。江戸時代に、イギリス船が寄港。そして、最近まで北海道における石炭の積出港として長く栄えた。今でもその港は、鉄の町として、室蘭の経済を支えている。町の真ん中に工場が林立する。これが、ちょっと玉にキズ。でも、だからこそ経済的にも、文化的にも、とても豊かな町なのだ。
広い港では、釣りが出来る。天然の帆立貝も入れ食い。山側を見れば、支笏洞爺国立公園。ルスツやニセコも手の内だ。スキーファンとしては最高のロケーション。
都会では当たり前の物も、この町にはない。
有料駐車場、交通渋滞、暴走族・・・。
駅前ですら、無料で車を止められる。
何も知らなかった室蘭。でも今は、ちょっと室蘭通か。
▼その他の記事も読む
川村 正春
56歳 昨年、早期退職をしました。今は、好きな旅をしながら、 自分の幸せを見つめなおしているところです。 自分のHPを持っています。
▼
このコーナーでは、あなたの国内旅行の体験記を募集しています。
|