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「秋」の真価を全身で感じたい
朗読でも味わうべき芥川作品

宮坂党

◆◆〈芥川神話〉からの緩やかな離陸の時代

 芥川龍之介は、1927(昭和2)年7月24日未明、服薬により自裁し35年と4ヵ月余の生涯を閉じた。それは、昭和が明けて丁度7カ月後(大正から昭和に変わったのは、前年の12月25日)のことであった。その時、洩らした〈ぼんやりした不安〉の言説は、当時の人々の心に共鳴しそれを震撼させた。が、それは、苦悩に満ちた気難しい陰鬱な雰囲気を醸し出した〈芥川神話〉の端緒ともなった。
 今年は、その芥川の穀後80年にあたる。それを視野に入れた芥川龍之介展が、昨年から今年にかけて開催された。老成や世紀末や陰鬱がまとわりつく〈芥川神話〉から自由な年若い学芸員の感性は鋭い。メディア等でも話題になった「ボクは文ちゃんがお菓子なら頭から食べてみたい」という龍之介の若き文夫人に宛てたラブレターを引用した鎌倉文学館、唯一とも言える龍之介が笑っている写真をポスターやチラシに使った仙台文学館の芥川龍之介展に、苦悩に満ちた気難しい陰鬱な雰囲気を醸し出した 〈芥川神話〉 からの緩やかな離陸を感じさせた。

◆◆豊かな日本語が散りばめられた詩的世界の住人になる

写真  ここ四半世紀で、芥川龍之介のイメージが急激に変わり始めている。それは、〈芥川神話〉からの解放を意味し、龍之介の実像、芥川文学の真の魅力に迫ることでもある。芥川は、しばしば〈理知の人〉と言われてきた。それは、彼の虚像であることも知れる。生きることに対する柔らかな感性を、字句の裏から素直に読み取ることができるようにもなった。芥川の作品は、散文詩として読むと真価が解る。確かに、プロット(作品の筋)の運びに類まれなものがある。が、そこに目を奪われていては、本当の魅力に出会えない。散文詩として 〈聴く・読む〉 ことは、豊かな日本語の〈ことば〉を精一杯に駆使した詩的世界を堪能することである。すべての神経を集中して、その詩的世界の住人になることである。
 「秋−」/信子はうすら寒い幌の下に、全身で寂しさを感じながら、しみじみこう思わずにいられなかった。
とは、作品「秋」の末尾である。ここで、プロット(筋)に注目していたら、何のことはない。芥川文学の詩的世界とは、切り結ばない。まさに、「全身で寂しさ」に秘められた詩的メッセージに真に触れられないかも知れない。
 やはり、芥川作品は、身体で、〈全身〉を通して感じてみたい。


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宮坂党(みやさかさとる)
フェリス女学院大学文学部教授。1944年、長野県生まれ。早稲田大学卒業。上智大学博士課程満期退学。80年からフェリス女学院大学で教鞭をとる。著編書に『芥川龍之介一人と作品−』『芥川龍之介作品論集成』『芥川龍之介全集索引附年譜』など多数。

商品番号078220
価 格¥2,100(税込)
タイトル芥川龍之介「秋」/朗読:奈良岡朋子
曲 目

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情報更新:2007/11/03

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